埼玉県建設産業担い手確保・育成ネットワークは、平成30年度総会を3月28日午前9時30分から建産連研修センター201会議室で開催し、30年度事業の実施報告を行うとともに、2019年度事業の実施計画を決めた。当協会からは星野会長らが出席した。
開会に先立ち挨拶に立った古郡会長(埼玉県建設産業団体連合会会長)は、「産官学が連携し、一体となって担い手の育成に取り組む必要がある」と述べ、、一層の協力体制を強調した。
ネットワークの設置期間は平成31年3月31日までとなっていたが、事業の継続・拡大が必要ため、「2022年3月31日まで」とする規約の変更を諮り、承認された。2019年度は、従来の幹事会を発展させた新幹事会を設置し、建設産業の人材の確保・育成に係るさまざまな課題やその対策、実施事業の具体的な計画、実施方法などについて検討を行う。建設業情報管理センターが実施する「地域建設産業のあり方に関する調査研究」の対象として埼玉県がエントリーしており、これが実施されれば、幹事会の検討と連動し、年度末までに必要な新規事業を割り出す。県は、必要に応じてこの事業の予算化を検討するとしている。
2019年度の実施計画は次のとおり。
【会議】
◇総会
年1〜2回開催
◇幹事会
年3〜4回開催
【主要事業】
■入職促進
◇広報・イベント
▽建産連ニュースでの情報提供(年4回発行)▽高等学校の進路指導研修会に参加▽ポスター・絵画コンクールの実施―親子ふれあいイベントの開催(11月14日県庁内)(参加希望団体との共催、テント設営)▽県庁オープンデーに参加(11月14日関係団体と連携、建設産業の紹介)▽建設現場等での情報発信(県営繕課などとの連携)
◇インターンシップ
▽非行青少年等を対象とした就労体験支援(県青少年課との連携)―登録企業への就労体験支援、各団体・企業が個別に実施(受け入れは高校等と個別に調整)
◇現場見学会
▽公共工事の候補地一覧表の作成・提供(県の関係部局に依頼)▽多様な現場見学会の開催、支援(県関係課との連携)▽各団体が個別に実施
◇出前講座
▽各団体・企業が個別に実施
■職場定着・資格取得
◇新入社員研修
▽新入社員研修の開催(年2回)=1回目は5月(日帰り、2日間)、2回目は9〜11月(日帰り、2日間)▽各団体が個別に実施
◇フォローアップ研修
▽安全衛生レベルアップ講座の実施(年4回)▽ドローン(体験、実技)研修会―県内施設(全国建産連との連携)▽パソコンスキルチェックセミナーの実施
◇資格取得支援研修
▽各団体が助成事業等を活用して実施
◇シニア指導者育成研修
▽若手技術者の育成を担う指導者育成研修の実施(年1回)
■女性活躍
◇広報・イベント
▽建産連ニュース等で企業の取組や女性技術者の姿や現場の声などを紹介
◇現場見学会(女性が活躍する工事現場)
▽県立高校の改修工事等で実施(県営繕課などと連携)
中村労働委員長 |
2019年度新入社員研修会が4月16日から18日まで2泊3日の日程で、伊奈町の埼玉県県民活動総合センターにおいて開催され、会員企業53社から169人(うち女性29人)の若者が参加した。
開講式では、主催者を代表して当協会の中村労働委員長が「研修には前のめり、積極的な姿勢で臨んでいただきたい。その体験が宝となる。自分をみがくのは自分自身だ。計画性を持って、メリハリある行動を心がけてほしい」とあいさつ。富士教育訓練センターの菅井文明専務理事は、「今の顔と、三日後の修了式の顔が180度変わっていることを期待すると語った。
講師は3日間にわたり富士教育訓練センター講師の花輪孝樹氏などが務めた。花輪講師は、「学力偏差値から脱皮し、仕事偏差値を上げてほしい」と呼び掛けて講義を開始した。1日目の午前中は講義が中心。まず、新時代を切り開く人材として何が求められているか、社会人としての責任と義務を説き、「常に仕事は100%を求められる」などと各自の自覚を求めた。午後からは参加型で講義を進めた。あいさつの仕方など、社会人としての基本動作を説明。ビジネスマナーを実践演習し、名刺交換、電話対応や、敬語、文書作成の基本を学んだ。夕食後には、グループ演習として、交流や自己啓発についてのプログラムを精力的に消化。午後11時に就寝となった。
花輪講師が社会人のあり方を説いた | 名刺交換を訓練 |
2日目は、7時10分からの朝礼で始まった。講義は、「実践話法として自己表現とコミュニケーションの方法などを解説。グループ演習では、目標達成に向けたチーム思考と行動の仕方などを訓練。夕食後は、相互理解と親睦を兼ねたグループ研究などのメニューにチャレンジし、和やかな雰囲気の中でプロ意識の醸成を図った。
最終日は、加賀美講師が「建設業と労働安全衛生」と題し、建設現場の危険と危険予知について解説。花輪講師が社会人としてのよりよい自分づくりに向けて、どういった意識を持つべきかを説いた。その後、感想文の作成とアンケートで研修会の成果を取りまとめた。
閉講式では、研修生を代表して福島千紘さん(古郡建設)が修了証を受け取った後、協会を代表し小島専務理事があいさつ。「社会人には学生と違う決まりごとがある。忍耐を持って、ぜひ長く建設業界で活躍していただきたい」と呼び掛けた。また、富士教育訓練センターの菅井文明専務理事は、「初日とは皆さんの目の輝きが違う。各々の会社でしっかりと苦難を乗り越えていけるでしょうと研修の成果を確信した。その後、内丸拓海さん(初雁興業)が代表謝辞を述べ、式を終了した。
修了証を受け取る福島さん | 小島専務 |
■報告書作成の趣旨
女性が働きやすい職場環境づくりに向けて
建設業界を取り巻く状況は、地域間格差、大手と中小との企業間格差の拡大などの課題はありますが、2019年度以降も引き続き堅調に推移するものと予測されています。一方、人手不足が顕在化しており、各産業間の人材獲得競争が激化しています。建設業は、若者の確保・定着が困難な状況にあり、女性が働きやすい職場環境を整えることにより、貴重な戦力である女性技術者の活躍の場を一層拡大する必要があります。このため協会では、女性技術者が建設業界で働く上での、雇用・労働条件、職場環境、現場環境などの現状と課題を整理し、望ましい方向性や具体的な好事例を会員企業に提示することにより、会員企業における女性技術者の活躍を支援するため、この報告書を作成しました。
報告書の作成に当たっては、実際に会員企業で働く女性技術者に参加いただいて懇談会を開催し、様々な観点から意見をうかがいました。(開催日は第1回が平成30年9月28日、第2回が12月13日)
参加者は次のとおり。(敬称略)
▽小川幸子(小川工業 コーディネーター)▽飯塚久味(中里組)▽神山明子(田部井建設)▽関根綾香(小川工業)▽梨宜子(真下建設)▽谷田理恵(初雁興業)▽田部井恵理(島村工業)▽難波くるみ(小川工業)▽半田智恵子(関口工業)▽黛桃子(伊田テクノス)▽吉村皐(初雁興業)
以下に、懇談会での意見を踏まえて取りまとめた「女性技術者が働きやすい職場づくり」の方向性を記載します。
◆女性が働きやすい職場環境づくりに向けた基本的考え方
《大前提》
体力差などの男女の違いには配慮してほしいが、その他技術者としての仕事においては平等に扱ってほしい。
《関連意見》
・同期の男性技術者がいるが、上司が男性技術者ばかり現場に連れて行き、自分は内勤が多い。
※本人の意向も確認し平等に処遇しましょう。
・女性用作業服の色を男性用と別にする必要はない。
※懇談会参加者10人中、「必要ない」8人、「どちらでもよい」2人でした。わざわざ女性が目立つような色にする必要はないというのが大方の意見です。
・子育てや介護は女性の役割のように思われているが、本来は男性もその役割を担うべきである。
※会社と女性技術者が協議し、双方納得したうえで、勤務条件等を決定することが最良の方法ではないでしょうか。
・年配の男性現場所長は女性への配慮の仕方が分からないのではないか。現場で何かしようとすると「危ないから」と止められる。
・本社の上役が気の使いすぎで、退勤時間を毎日チェックし、午後9時くらいまでいると「まだ残っているのですか」とメールが来る。
※女性だからといって過剰な配慮は不要というのが女性技術者の一般的な考え方のようです。ですが働き方改革は待ったなしの状況です。上役の方も早く帰りましょう。
◆個々の問題
(1)作業服について
男性用と女性用で作業服の色を変える意味が分からない。それよりも身体に合ったサイズのものが欲しい。
【主な意見】
▽ウエストの最小サイズが小柄な女性には大きすぎる▽女性用シャツのポケットが小さくて野帳が入らない▽女性用フルハーネス型安全帯が重いので、もっと軽量化してほしい
(2)トイレについて
女性用の快適トイレの設置を望む声が多くありました。
【主な意見】
▽女性用のトイレがあって「女性用と表示してあるのに男性が使用し、しかも掃除をしない▽快適トイレが仮押さえされていてどこにもない▽国土交通省の現場では女性用の快適トイレが設置されているが、女性技術者がいない現場にも設置されているので、他の必要な現場に回してほしい▽現場の所長にはじめから女性用の快適トイレを入れる気がなく、男女別に分けるだけの対応である▽大1器の現場では、何度掃除しても男性が汚すので困っている。トイレの掃除は順番制にすべき
※女性一人の現場では、「女性用トイレのことで却って周囲に気を使わせてしまっているのではないかと感じる」と、女性の側でも気を使っているようです。
(3)更衣室について
特に夏場などは、現場で着替えをしたり日焼け止めを塗ったりする方もいて、場所の確保に苦労されているようです。
【主な意見】
▽着替えの場所がなく、現場の倉庫の出入ロを閉めて着替えている▽上司と二人の現場では、上司に現場事務所から出てもらって着替えをした▽現場事務所内をカーテンで仕切って着替えた▽現場事務所もトイレもない現場では、近くの観光施設で着替えをした
(4)力仕事への対応について
力仕事への対応は、多くの女性技術者が配慮してもらいたいと考えている事項のひとつのようです。そのため、女性技術者の皆さんも色々と工夫されています。
【主な意見】
▽重い物は手伝ってもらえるよう、現場で仲良くなることが大事だと考えている▽他の仕事を手伝って上司に貸しを作っておくようにしている▽下請けの方と良好な関係をつくるよう努力し、必要な時は作業してもらえるようにしている▽重い物を移動するような場合、会社の人は配慮してくれるが、職人さんは「大丈夫だよ」とごり押ししてくる
(5)子育てについて
仕事と子育ての両立にご苦労された経験をお持ちの方もいらっしゃいます。懇談会でのご意見が、どのような配慮ができるのかを考えるきっかけになればと思います。
【主な意見】
▽今の会社ではなく、随分以前の話だが、子供ができた時、社長に「辞めてくれ」と言われ退職した。その後、実家の両親に子供の面倒を見てもらうように頼んで復職した▽子供の急な病気などの場合、現場を止められないので、現場で段取りをしてから子供を病院に連れて行き、また現場に戻るという対応になる。技術者が2〜3人いる現場ならサポートしてもらえるが、1人の現場では厳しい▽仕事の都合で学校行事を欠席することもある▽月に1回、親を病院に送迎している。担当医師は本来、土曜日は休診だったが、頼み込んで土曜日の診察にしてもらい、その日は現場を閉所する。それができる立場になったということであり、上司の下に付いているうちは難しい
(6)冷暖房について
体感温度は個人差がありますから、室内の温度調節は難しい問題ですが、一般的には女性のほうが寒がりと認識されていると思います。そんな中で、次のような意見がありました。
【主な意見】
▽本社内の冷房が効き過ぎて、膝掛けやカーディガンが必要になっている▽冬場に寒いので膝掛けをしていたら、役員がマイストーブを買ってくれた
(7)残業について
働き方改革は待ったなしの状況です。効率的に仕事をする意識が大切だと思います。そんな中、次のような意見がありました。
【主な意見】
▽若い頃、上司がいる間はなかなか帰れず、毎日夜12時頃まで残っていた。上司から「なぜ帰らないのか」とも聞かれなかった。仕方がないので、昼間は意味もなく現場に出て、夜の仕事を残していた▽水曜日がノー残業デーで、その前後の日は残業が増えるが、1日でも5時に帰れればリフレッシュできる▽子供の学校行事などでどうしても休まなければならない時があるが、やはり他の日にしわ寄せがくる▽工事書類の作成があるので、どうしても早くは帰れない
(8)休暇について
建設業も男女を問わず休暇を取りやすい産業へと転換する必要がありますが、現実はなかなか厳しいようです。ここでは、主な意見を掲載します。
【主な意見】
▽1人1現場が原則なので、休日出勤しても代休は取れない▽連休があると体力的に助かる。国交省の現場は週休2日がやりやすいが、県や市町村の現場では難しい▽会社では、代休取得率100%、有休取得率100%の目標を設定し、部門ごとに達成率を公表しているが、実際にはなかなか休めないため、出勤しても休暇扱いにしているという実態がある
◆小川コーディネーターの所感
建設業に就業する女性が徐々に増加し、女性が働きやすい職場環境への意識も高まっていますが、作業着やトイレのようなハード面の課題、女性だからと特別扱いされる、育児をしながら働くのは難しい、といったソフト面の課題など、改善していかなくてはならない課題は山積しています。
こうした中で、女性技術者懇談会の参加者のほぼ全員から、日々の業務については女性を特別扱いせず、男性と同様に扱ってほしいという意見が上がりました。確かに、女性は体力を要する仕事は不得手で、家事や育児や介護について男性より負担していることが多いという現実があります。しかしながら、男性にも業務の得手不得手はありますし、家族の介護に直面する男性も増加しています。ですから、男女で区別するのではなく、各人の得意分野で役割分担し、お互いにカバーしながら働ける職場環境づくりを進めることが出来れば、女性だけでなく、男性も働きやすい職場環境づくりへとつなげていけるのではないでしょうか。
また、女性技術者が活躍している現場とそうでない現場を比べると、その大きな違いのひとつはコミュニケーション量ではないかと感じます。コミュニケーション不足が、先入観やこれまでの習慣のまま変化しない男性上司あるいは同僚の理解不足を生み、女性だからと過剰に配慮し過ぎて活躍の場を狭めていたり、反対に何が必要なことなのか気付けず最低限の職場環境も整わなかったりしているのです。
これからの働きやすい職場環境とは、お互いに理解しながらそれぞれの得意分野を生かした活躍が出来る環境だと思います。そしてそれは、相手への少しの気遣いから簡単に始められることです。今後、相互理解とそれによる環境改善の継続が、女性技術者だけでなく、若い人にも魅力的な職場、ひいては多様な人々が活躍できる建設業界の実現につながっていくことを期待しています。
◆結びに
建設業界では現在、週休2日制の導入などの働き方改革や社会保険加入推進などによる雇用・労働条件の改善と、ICT施工などの生産性向上を並行して進めていますが、こうした動きが業界全体に浸透するにはまだまだ時間がかかります。身近でできるちょっとした職場環境の改善の積み重ねが、大きな成果につながることもあると思います。
この報告書が、少しでも会員企業の皆さんの創意工夫の手助けになれば幸いです。
第1回懇談会 | 第2回懇談会 |