アベノミクスによる景気回復を受けて、雇用環境は改善しているようだ。埼玉県の有効求人倍率(公共職業安定所を通じて求職者1人に対し、企業から何件の求人があるかを示したもの)は、2006年、2007年は2年連続して1倍を超えていたが、2008年に0.87倍と1倍を割り込み、リーマン・ショック後の2009年には0.40倍と低下した。その後は持ち直し傾向にあり、2013年は0.62倍、2014年9月は0.75倍へと上昇している。
このような状況のもとで、当研究所は埼玉県内企業へ雇用動向に関するアンケート調査を8月に実施した。全産業で「適正」とする割合は54%と前回調査比19㌽増と大幅に増加している一方で、「過剰」が13%と、前回調査の24%に比べ11㌽減、「不足」は同8㌽減の33%という結果が得られた。過剰感がかなり薄れ、適正が選択肢の中で最も多くなっている。景気が緩やかに持ち直すなかで、雇用者側からみた雇用情勢は改善傾向にあると見られる。ただし、今回の調査でも雇用者数が「不足」としている回答が33%もあり前年の41%から減少しているものの、依然として不足感も根強く残っている。
建設業についてみると、建設業の回答企業18社のうち13社が「不足」と回答、率にすると72%にのぼっている。「適正」と回答した企業は5社と28%にとどまり、「過剰」と回答した企業はゼロとなっている。建設業では、人手不足が深刻となっている。現場の作業員不足が原因で入札不調となる事業が増加しているほか、着工した工事の進捗遅延といった事態も生じている。
労働需給の引き締まりは、賃金・時給の増加や非正規雇用者の正社員化など、労働者に対する処遇面での改善につながり、賃金増を通じて消費の拡大に寄与する。一方、人手不足が深刻な業種では、「供給制約」として企業活動の支障となっている。深刻な人手不足は、建設業にとどまらず、小売業や外食産業でも起きている。店舗運営に必要な従業員数を確保出来ず、新規出店戦略の見直しや既存店舗の閉鎖を迫られるケースがみられる。人手不足が今後の景気の足かせとなることが懸念されている。
人手不足の背景には、少子化により若い世代の労働力人口が減少していることのほか、同業他社との採用を巡る競争が厳しくなっていること、求人と求職者間で求める能力や希望する労働条件等のミスマッチが背景にあるようだ。雇用のミスマッチといった問題を早期に解消することは難しく、当面人手不足の状況が続くとみられる。人手不足の解決には、労働条件の改善による若手人材の確保と計画的な人材育成の取り組み、これに加え子育て世代を中心とする女性や急速に増加しているシニアが働きやすい労働環境を整えることが必要であると考えている。
(ぶぎん地域経済研究所)