一般社団法人埼玉県建設業協会

トピックス 2023年9月号

時間外労働時間の上限規制待ったなし!!
適正工期、法律、助成金で講義
建設業経営講習会を開催

挨拶する磯田専務

 当協会は、8月2日午後2時から埼玉建産連研修センター大ホールで令和5年度建設業経営講習会を開催した。埼玉県建設産業団体連合会、東日本建設業保証埼玉支店との共催。当協会員の経営者・経営幹部・人事担当者など52名が参加した。業界にとって喫緊の課題である令和6年4月からの「建設業における時間外労働上限規制について」をメインに、関連する3つのテーマで関係機関が講演した。
 会の冒頭、当協会の磯田専務が、「時間外労働時間の上限規制が建設業にも適用となるまであと8か月に迫っている。各社とも、労働時間の削減を含めた『働き方改革』を進めていることと思うが、生産性の向上をさらに押し進め、万全の体制で来年4月を迎えなければならない。また、働き方改革は、単に労働基準法を守り、罰則を受けないようにするということだけでなく、新たな担い手を確保するという意味においても非常に重要だ。若者が建設業で『働きたい』と思える環境を整えないと、業界の維持・発展が困難となり、引いては地域の生活や産業を支えるインフラの安全・安心が脅かされるという懸念がある。本日の講習会が皆さんの今後の事業運営の一助となると思うので、是非熱心に受講していただきたい」とあいさつした。
 講義の概要は次のとおり。

■「建設工事における適正な工期の確保に向けて
 (講師−国土交通省関東地方整備局建政部・一力哲也建設産業第一課長)

関東地整・一力課長が講義

 不適正な工期は、現場の長時間労働、週休2日制の阻害要因、施工品質の低下につながる。新担い手3法でも適正工期の推進を目指している。さらに、労働基準法の改正で令和6年4月1日から建設業にも時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間)が適用され、罰則の対象。適正工期の確保が必須の状況となっている。
 国交省の調査から見た現状では、@4週6閉所以下の現場が4分の3程度を占めるA技術者・技能者とも月当たりの最大残業時間は「0〜50時間」が多いものの100時間超も見られるB工期の変更要因としては、元請けは「資機材の調達難航」、下請けは「関連工事との調整」が多いB「受発注者間の協議」が適正な工期設定につながるC適切な協議による契約変更が必要−などとした。
 適正な工期設定は発注者の責務であり、設計図書等の施工計画及び工期の設定や請負代金の額に影響を及ぼす事象について、請負契約を締結するまでに、必要な情報を受注(候補)者に提供することが必要。国交省では、@週休2日の費用計上や交代制モデル工事の試行A「工期設定支援システム」の活用B工事工程表の開示−などを実施している。受注者は、施工条件が不明瞭な場合に発注者にその旨を通知し、施工条件を明らかにするよう求めることが必要。「著しく短い工期の禁止」は建設業法にもうたわれており、元下間においても、特に前工程の遅れによる後工程へのしわ寄せの防止に関する取組等を行わなければならない。工期設定で考慮すべき事項は、@工期全般に渡っては天候などの自然要因、休日の確保などA「準備」「施工」「後片付け」それぞれの段階で発生する作業を踏まえるB民間発注工事では「住宅・不動産」「鉄道」「電力」「ガス」の分野別の特性を理解−とした。
 生産性向上、経営効率化、長時間労働是正に向けた企業の取組例を紹介(島村工業の社有地有効活用など)。適正な工期設定に役立つサイト・相談窓口を紹介。

■「建設業における時間外労働上限規制について」
 (講師−埼玉労働局労働基準部監督課・岡部雅紀監察監督官)

埼玉労働局・岡部監察監督官が講義

 労働基準法(32条)では、労働時間は原則として1日8時間・1週40時間以内、休日は原則として、毎週少なくとも1回とされている(法定労働時間、法定休日)。法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合や法定休日に労働させる場合には労働基準法第36条に基づく労使協定(サブロク協定)を締結し、所管労働基準監督署長に提出することが必要。36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」や「時間外労働の上限」などを決めなければならない。
 働き方改革関連法により改正された労働基準法で、「時間外労働の上限は、原則として月45時間、年360時間(限度時間)とされ、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)とされた。平成31年4月1日施行だが、一部令和6年3月31日まで適用猶予があり、建設業も対象。
 建設事業のうち、災害時における復旧及び復興の事業に限り令和6年4月1日以降も時間外労働と休日労働の合計について、@月100時間未満A2〜6か月がいずれも1月あたり80時間−が適用されない。しかし、@時間外労働が年720時間以内A時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月が限度−は適用される。これは、労働基準法第139条(災害時における復旧及び復興の事業)によるもので、「社会的要請が強いため」建設の事業に限り対象となる。特別事項として「災害時における復旧及び復興の事業に従事する場合」について協議し36協定を届け出、36協定で定める範囲で時間外・休日労働を行わせることができる。復旧・復興の事業に従事した労働時間は、通常の労働時間と分けて管理する必要がある。複数月の時間外・休日労働時間の平均を算出する際に、復旧・復興事業分は除いて計算するためである。
 労基法には33条があり、「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」労働基準監督署に許可申請等を行った場合には、36協定で定める限度とは別に時間外・休日労働を行わせることが可能となる。1か月100時間未満、複数月平均80時間以内の上限には含まれない。建設業を含む全業種が対象で、事態急迫のため行政官庁の許可を受ける暇のない場合は、事後の届出も可能。
 労働時間管理の実務イメージは、【ステップ1】時間外労働、休日労働について36協定締結【ステップ2】毎月の時間外労働、休日労働の時間数とその合計の把握【ステップ3】年度における時間外労働が月45時間を超えた回数(特別条項の回数)、時間外労働の累積時間数の把握【ステップ4】毎月の時間外労働と休日労働の合計時間数について、2〜6か月の平均時間数を把握【ステップ5】ステップ1〜4で把握した前月までの実績を基に、当月における時間外労働時間数と休日労働時間数の最大可能時間数の把握【まとめ】@「1日」「1か月」「1年」のそれぞれの時間外労働が、36協定で定めた時間を超えないよう管理A休日労働の回数・時間が、36協定で定めた回数・時間を超えないよう管理B特別条項の回数が残っていれば時間外労働の残時間数まで、残っていなければ原則の上限時間(限度時間)までとなるよう月の時間外労働を管理C毎月の時間外労働と休日労働の合計が、100時間以上とならないよう管理D月の時間外労働と休日労働の合計について、前2〜5か月の合計と合算して、月数×80時間を超えないよう管理。

■「建設業における助成金等の活用について」
 (講師−埼玉働き方改革推進支援センター・松浦洋一郎氏)

支援センター・松浦氏が講義

 埼玉働き方改革推進支援センターは、埼玉労働局からの受託事業で、働き方改革関連法に係る相談に対応している。相談方法は、@訪問コンサルティングAオンラインコンサルティングB電話・メール・来所−などで、特に訪問コンサルティングの需要が高まっており、36協定の結び方や、労働時間の判断などの相談が多い。
 最近は、助成金に関する相談が増えており、資格取得などにも活用できる。建設業の働き方改革と人材確保は連動しており、助成金の活用で、働きやすく働きがいのある職場を実現してほしい。若手や女性の入職を推進できる職場づくりが求められている。生産性と従業員満足度の向上が、企業の持続的発展に結び付く。長時間労働や長時間拘束される職場、職業能力が発揮できず、向上できない職場、自分の裁量で仕事が進められない現場では従業員が前向きに仕事に取り組めない。資格取得を支援し、創造的な仕事にシフトし、時間単価を意識させるよう働き方を変えることが必要。
 令和5年度「働き方改革推進支援助成金」適用猶予業種等対応コース(建設業)は、生産性を向上させ、労働時間の削減や週休2日制の推進に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主を支援する。11月30日までに交付申請書を最寄りの労働局雇用環境・均等部(室)に提出。交付決定後、提出した計画に沿って取組を実施(事業実施は令和6年1月31日まで)。実施後労働局に支給申請する。対象事業主は、@建設・関連事業の中小企業A年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備しているB交付申請時点で36協定を締結している−など。助成対象となる取組は、@労務管理担当者に対する研修A労働者に対する研修、周知・啓発B外部専門家によるコンサルティングC就業規則・労使協定等の作成・変更D人材確保に向けた取組E労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新F労働能率の増進に資する設備・機器などの導入・更新−で、いずれか1つ以上を実施する。成果目標は、@月60時間を超える36協定の時間外・休日労働時間数を縮減させるA全ての対象事業場において、4週における所定休日を1日から4日以上増加させる−から1つ以上を選択。成果目標の達成状況に応じて、取組の実施に要した経費の一部を支給する(助成額最大830万円)。
 令和5年度業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を30円以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その設備投資等にかかった費用の一部(最大600万円)を助成する制度。申請期限は令和6年1月31日。労働局に対し、所定の様式で交付申請する。
 このほか、建設業事業主が使える助成金を紹介。▽トライアル雇用助成金−若年・女性建設労働者トライアルコース▽人材確保等支援助成金−若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)、作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)▽人材開発支援助成金−建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コース、などがある。認知度が低いのか、案外使われていない。キャリアアップなどに活用してもらいたい。 厚生労働省のホームページには「働き方改革特設サイト」があり、事例集を載せていることを紹介した。

■質疑応答
 36協定の結び方、現場事務所での扱いなどについて質問があり、支援センターが訪問コンサルティングの活用などを呼び掛けた。家畜伝染病の防疫措置への従事は第33条の対象となるかの質問があり、埼玉労働局は可能性としては高いが、その都度協議が必要とした。


埼玉県地域建設業ICT推進検討協議会
ICT施工経営者セミナーを開催

 埼玉県地域建設業ICT推進検討協議会によるICT施工経営者セミナーが、8月31日午後2時から建産連研修センター201会議室で開催された。協会関係者ら41名程度が会場で聴講したほか、WEB方式で協議会構成者などに配信された。国土交通省の第1回インフラDX大賞を受賞した金杉建設の吉川社長らが講演した。
 協議会はICT施工の普及促進に向けた活動を行う組織で、発注者として国土交通省関東地方整備局・埼玉県・さいたま市が、受注者として当協会の青年経営者部会が参加している。令和5年度から、新規にICT経営者セミナーを開催することとなった。
 当日のセミナーでは、冒頭、国土交通省関東地方整備局企画部の国頭正信建設情報・施工高度化技術調整官が「時間外労働時間の上限規制が始まる2024年度への対応として、新しい時代の労働環境の構築を進めなければならない。ICTは小規模工事での活用が課題で、費用対効果、技術者不足等の問題があると聞いているが、生産性向上に向けチャレンジが必要。経営者が積極的に取り組んでほしい」とあいさつした。
 当協会の田部井青経部会長は、「時間外労働時間の上限規制への対応は待ったなしとなっている。大事なのは生産性向上であり、ICT活用がキーワードとなる。今回のセミナーが経営者の一助となることを期待する」とあいさつした。その後、協議会事務局がセミナーの趣旨などを説明した。

挨拶する国頭調整官
挨拶する田部井青経部会長

 講演で金杉建設の吉川社長は、「地域建設業者は、何故、ICTへ投資しなければならないのか?」と題し、自社のICTの取組み方、ICT機器保有の考え方などを説明。実際の現場でどのようにICTを活用しているかを紹介。ICT内製化のメリットを語った。
ICT内製化を行うと、手待ち時間の短縮や効率アップによって生産性が向上するだけでなくトラブルの未然防止や現場条件に応じた幅広い施工が可能となり、ほとんどの発注者のニーズに応えることができる。受注機会の拡大により、より利益率の高い工事の受注が可能になり組織全体の高収益化を図る事ができる。しかし、業界全体がICT内製化を推し進めた時には、このメリットは希釈されるため、他社に先行して投資しなければメリットを最大限享受する事ができないとし、ICTへの早期投資が有効と語った。
 コンサルタント会社のストラテジクスマネジメントは、ICTソリューション事業部の吉田なぎさ氏が「ICT施工のメリットとデメリット」と題して講演した。

講演する吉川社長

県議会無所属と意見交換
働き方改革など3項目要望

 当協会は、「令和6年度埼玉県への施策並びに予算編成に対する団体要望」に関し、8月18日午後2時から県議会議事堂で県議会無所属県民会議との意見交換(ヒアリング)を行った。
 小川会長、伊田常任顧問らが参加。当協会から「公共事業予算の増額確保と県内(管内)業者の受注の拡大」「働き方改革の推進について」「入札・契約方式の見直しについて」の3項目を要望した。無所属県民会議は各要望に一定の理解を示すとともに、地元建設業の現状把握に努めた。


全建社会貢献表彰
協会4支部が受賞

 全国建設業協会(全建)は、7月26日に経団連会館(東京都千代田区)で令和5年度社会貢献活動推進月間功労者表彰式を開催。当協会の4支部が鳥インフルエンザ防疫活動への貢献で表彰された。
 全建は、平成18年度から毎年7月を「建設業社会貢献活動推進月間」と定め、月間期間中の活動の一環として、各都道府県建設業協会・会員企業と連携し、地域建設業界の実践している幅広い社会貢献活動及び広報活動を国民・社会に広くアピールするため、毎年中央行事を開催している。社会貢献活動推進月間功労者表彰は同行事の一環で、各地域で実践された様々な社会貢献活動と、建設業のイメージアップ広報活動を顕彰している。令和5年度は、計64事例が受賞した。
 当協会からは、大里支部(古郡支部長)、川越支部(関根支部長)、北埼支部(渡辺支部長)、飯能支部(宮崎支部長)の4支部が受賞。表彰式には小川会長も出席した。
 表彰項目は、社会貢献・SDGs功労者表彰で、鳥インフルエンザ防疫活動に対して。令和4年12月から令和5年1月にかけて、埼玉県内では高病原性烏インフルエンザが県内4か所で発生。埼玉県と埼玉県建設業協会が締結している協定に基づき、埼玉県より大里・川越・北埼・飯能の4支部に対して防疫措置の要請があり、即座に対応した。

表彰を受ける4支部と小川会長

当協会協賛
建設業経理事務士特別研修(3級)開催

 当協会協賛(建設業振興基金主催)による令和5年度建設業経理事務士特別研修(3級)が、7月7日から9日にかけて建産連研修センター101会議室で開催された。29名が参加。最終日に:検定試験を実施した。合格者には3級建設業経理事務士の合格証書が交付される。
 1日目の講習は午前9時30分に開始、休憩を挟んで午後5時に終了した。2日目の講習も同様。3日目は、午前9時30分に開始、休憩を挟んで午後2時20分に終了し、2時30分から4時30分まで検定試験を行った。講師は松澤敏幸氏が務めた。
 4級建設業経理事務士有資格者を対象に実施。建設工事の施工工程で発生する取引や、一般的な商取引に係る記帳処理上の問題点を解きながら、建設業の決算について、実務を踏まえた例題を多数用いて講義した。特に重要である建設業の原価計算の基礎を確実に理解するための講習となっている。

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